2014/08/16

帰還へ 安全な飲み水/全村避難の葛尾(福島)


 ●深井戸の掘削本格化/東電「年内100世帯」

 全村避難が続く葛尾村で、帰還後の飲料水確保に向けた深井戸の掘削工事が本格化している。東京電力が委託した共同企業体(JV)が6月末から着手し、これまでに1世帯で井戸の工事が完了。現在は4世帯で並行して工事を進めており、年内に100世帯での完了を目指すという。

 同村落合の農業松板幸三さん(59)宅の庭で11日、地面に垂直に突き刺さった筒状のボーリングマシン(掘削機)がうなりをあげていた。「帰還後、家に孫が遊びにきても困らないよう、水はちゃんと飲めるようにしておきたい」と東電に井戸掘削を申し込んだ。

 JVによると、掘削機は先端に取り付けたビットを毎分30回転しながら打ち付け、地下50メートルまで掘り進む。掘削後、地表にポンプを設置して家の水道と配管をつなぎ、水質検査などを経て工事が完了する。工期は約3週間だという。

 阿武隈山系に位置する村には、簡易水道のある役場周辺以外に水道設備がない。原発事故前は約470世帯の大半が、沢水やわき水を引いて生活していた。昨夏に村などが行った住民意向調査でも、帰還の判断のため必要な情報として「生活用水の安全性」をあげる住民が最も多かった。

 環境省が昨夏行った沢水のモニタリングでは、村内6地点全てで、国の飲料水の放射性物質基準値(1キロあたり10ベクレル)を下回った。ただ大雨などの際は放射性物質が付いた土が地表の水に混入する恐れがあるとして、村は安全な飲料水確保を要望。東電は昨年12月、地表の放射性物質の影響を受けない50メートル以上の深さの井戸を掘り、費用を負担する案を住民に説明した。

 対象は避難指示解除準備区域で、事故前に沢水などを使っていた436世帯。12日までに、うち151世帯が掘削を申し込んだ。

 ただ村の地下水は必ずしも潤沢ではなく、生活に十分な量の水(毎分10リットル)が出るかは、それぞれの場所で実際に掘ってみないとわからない。東電によると、掘削は1世帯につき原則1回のみ。最大で70メートルの深さまで掘るが、それでも水が出なかった場合は蛇口にフィルターをつけるための費用50万円を支払うという。

 松板さん宅の井戸から十分な水が出るかわかるのは今月下旬だ。「事故前は当たり前に飲めていた水。1回掘って出なくても、あきらめきれない。東電は水が出るまで手を尽くしてほしい」

2014年8月16日 朝日新聞
http://www.asahi.com/articles/CMTW1408150700003.html

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