2014/11/30

原発事故の傷 支援の遅れ、再稼働 悩む住民/栃木


 二十七日午後、那須町湯本にある町役場湯本支所の駐車場。茶臼岳から吹き下ろす冷たい風の中、作業着を着た男女二人の町職員が、植え込みの中で空間放射線量を測っていた。
 「毎時〇・一七マイクロシーベルト。この場所はいつも、だいたいこれぐらいの数値ですね」。福島県に接する那須町は、東京電力福島第一原発事故後、毎週木曜日に町職員が一日かけ、計三十カ所の線量を定点観測している。
 この日の調査では、計九地点で、国が除染の目安とする毎時〇・二三マイクロシーベルト以上を観測。最も線量が高い所は〇・三九マイクロシーベルトだった。隣の那須塩原市でも、八月の調査で、市内の県有施設五カ所が〇・二三マイクロシーベルト以上を観測。事故から三年半以上が経過した今も、県北部は放射線という負の遺産に苦しみ続けている。
 福島県は事故後、国費で住民の甲状腺を検査しているが、栃木などの近隣県は対象外。栃木県北部でも検査のニーズは高いが、現政権の二年間で実現することはなかった。現在、国の有識者会議が、原発事故後の健康調査を再検討中だが、十一月の会合で示された中間取りまとめ案には、「福島の状況を踏まえ、必要に応じて検討を行っても遅くはない」など、健診拡大に消極的な言葉が並んだ。
 同じ県北部の矢板市では十二月中旬、子どもを対象にした集団甲状腺検査が予定されている。主催するのは、茨城県の民間団体「関東子ども健康調査支援基金」。開催まであと半月あるが、予約数は既に定員の百五十一人に達している。
 今回の検査を基金に依頼した住民グループの一人で、矢板市の井田紫衣(しえ)さん(57)は「国が検査しないから自分でやるしかない」とぽつり。安倍晋三首相が昨年、東京五輪招致のために「(福島第一原発の汚染水の)状況はコントロールされている」と発言した際には、「栃木県の汚染は、汚染のうちに入らないと思っているんだろうな」と落ち込んだ。

   ■  ■

 二年の間に「進展」もあった。国はもともと、県内の住宅の庭で土を取り除く除染には国費を充てていなかった。そのため、那須塩原、那須両市町が独自の予算で実施していたが、国は今年、市町が負担した表土除去費の全額を交付した。
 だが、県北部を拠点に除染に取り組む住民団体「那須希望の砦(とりで)」の竹原亜生(つぐお)代表の視線は厳しい。予算に限界のある両市町は、表土除去の対象世帯を子どもや妊婦がいる世帯に限ったり、除染費の一部を住民負担にしたりした経緯があるため、「今回の交付金が支援対象とした範囲は、とても狭い」とみている。
 また、表土除染をすれば大量の汚染土壌が出る。しかし国は汚染土に関し、福島県外では最終処分の方法を示しておらず、除染全体の遅れにつながっている。
 多くの課題が手付かずの中、現政権は九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県)の再稼働方針を表明。県北部の取材現場では「福島の事故は収束していないのに」という反発が多く聞かれた。放射線問題を抱える県北地域の苦しみに拍車をかけていたのは、住民の声に向き合うリーダーの不在だった。 

 <健康調査をめぐる県内の動き> 安倍政権が2013年10月に閣議決定した「子ども・被災者支援法」の基本方針によると、18歳以下を対象にした甲状腺検査の実施は現在、栃木県内では保障されていない。県の有識者会議はこの年の12月、ただちに健康影響は出ないと見通し、「健康調査は必要ない」とする提言を発表。調査を希望する住民との間で、現在も議論が続いている。県内の一部市町は、甲状腺検査の助成金を設けたり、集団検診を実施したりしているが、自治体間で支援内容にばらつきがある。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/tochigi/20141130/CK2014113002000146.html
2014年11月30日
東京新聞 地方版

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