2015/06/20

純国産ドローンが実用化、精密な放射線量マップ作成を目指す


(そもそも人が測定に入れないようなところを帰還目的に測定してどうするのだと思います。そこで、食べるし、遊ぶし、農業もするし、生活するのです。細かいメッシュでの測定は必要です。ただし、それは土壌測定で明らかにしていくことが必要です。さもなくば、ホットスポットファインダーのような測定器もあります。移動が楽なので、その代用は務まるかもしれませんが、研究者の意図しているところは違うようです。子ども全国ネット)


2015年06月20日   HARBOR BUSINESS Online
http://hbol.jp/46572 

福島の除染作業は原発事故から5年目を迎えた今も続行中だ。除染は原発から離れた地域から進められ、徐々に福島第一原発に近づく形で進められている。この福島の線量マップ作成に、千葉大の野波健蔵特別教授率いる自律制御システム研究所が開発したドローンに期待が寄せられている。

自律制御システム研究所のHPより
放射線量は原発からの距離だけではなく、さまざまな要素で大きく変わる。2015年3月、千葉県手賀沼で高濃度汚染が確認された。現場は居住区にある川の調整池だ。流されてきた土砂が浸水と乾燥を繰り返した結果、濃度が上がったとも言われている。また雨水が溜まる雨どいや用水路など、局所的に放射線量の高い場所――ホットスポットは、濃度もケタ違いとなっている。

ホットスポットなど生活エリアに潜む、高濃度放射性物質の影響をどう最小限に抑えるか。そのために「測定」と「除染」が必要なのは言うまでもないが、現実には「測定」の段階から課題が山積みだ。

主に航空機や車などで行われていた今までの線量測定では、小さい区域に発生するホットスポットを見逃す可能性がある。そもそも、航空機は航空法で300メートル以上地上に近づけず、おおまかな数値しか測れない。車での測定も車両が通行できる公道などに限定される。より効率的な除染作業のためにも、正確で細やかなマップが求められている。

前出の自律制御システム研究所は、2013年8月と11月にドローンを使って、福島県川俣町付近の放射線の線量測定と撮影をする実証実験を行った。管制室から遠隔操作したドローン(ミニサーベイヤー/MS-06LA)はGPSを使って指定された軌道を飛び、映像と測定データを持ち帰った。

測定した線量の数値の高さによって色分けされた線量マップは初回と再度計測した結果の推移を見ることができる。実験結果をふまえて、野波教授は今後の除染の課題についてこうコメントする。

「原発から4キロメートル四方の帰宅困難区域(年間積算放射線量が50ミリシーベルト超)は除染が完了していません。そもそも除染は全域ではなく、試験的に除染を行った箇所も、高い水準にとどまっています」

「できることなら戻りたい」という住民の願いを実現するには除染が、そしてその前提として線量測定が必要となる。

帰宅困難者が帰還できる放射線量「年間20ミリシーベルト以下」になるまでに30年かかると言われている。だが除染をすれば、その目安まで下がる期間が約20年に短縮できる可能性もあるという。

「いつになったら、放射線量は住民が帰還できるレベルまで下がるのか。そのシミュレーションには、除染がいつどこで行われ、結果、数値がどう変化したかを事細かに把握することが重要です。必要なのは継続的かつ、詳細な調査。その放射線の線量マッピングには約1メートル程度の高さを保ちながら、安定した姿勢で測定できるドローンが最適です。被ばくの危険性がある地域や山間部など人が入れない場所にも、遠隔操作で入っていくことができる。今後、災害時など、さまざまな形での活用が期待できるでしょう」

現在、研究所では”原発用”に別タイプのドローンの開発も進めている。レーザースキャナーが機体と周囲の障害物との角度・距離を計測し、GPSの使えない建屋内でも飛行できるドローンだ。しかも同時に周囲の3D地図を作り上げるので、高濃度の汚染などが理由で人が立ち入れない建物内の状況把握にも役立つ。

ドローンは急に発展した市場で実績が少なく、安全面での信頼性が薄い。20キロのカメラを搭載した機体が落下、または故障して暴走した場合を想定すると、原発で使うのはリスクが高いのではという指摘が東電からあったという。しかし、野波教授はこう反証した。

「まず、障害物との衝突リスクは、自動的に作成される3D地図で内部の様子を把握することで回避できます。また、モーターなどの故障などによって万が一暴走した場合を想定し、完全自律制御から半自律制御と人の操縦に切り替える仕組みも搭載されています」

当面の目標はレーザースキャナーの精度をあげ、「障害物の多い室内の飛行は難しいのでは?」と疑問視されたドローンの安全性を証明していくことだという。工学博士である研究所職員は災害用ドローンの製品化における課題について次のように語った。

「今後の改善点は、システムをより正確に、信頼性を上げて軽量化すること。ガンマカメラのような重いものを載せる場合はさらにバッテリーとモーターの効率・パワーを上げることが必要です」

この数か月、ドローンに対する世間の”逆風”は強まっている。今月11日、国土交通省は操縦者が目視できない距離での飛行を禁止し、国の重要施設の周辺上空を飛行禁止区域に指定するなどの、航空法改正案を発表した。いっぽうで利便性の高さを見込まれ、自治体や企業に採用されるケースも増えてきた。過酷な場所での利用が想定される、自律制御システム研究所のドローンは本年2月に福島第一原子力発電所5号機で実証実験を実施し、当初の期待通りの成果をあげた。今後、1~3号機の事故現場での活躍が期待される。

「技術的には、もはや研究開発から実用化の段階に移りました。次にめざすのは量産体制です。原発内での情報収集の他、農薬散布や作物の生育状況を確認する農業ビジネス、高架橋やトンネル内を点検するインフラ整備など、現代日本が抱える課題解決の一助となりたいと考えています。純国産機種だからこそ想定できるシステムを開発したいのです」

ドローンの規制強化が検討されるなか、国交省は被災地の観測などは規制の対象外とすることを検討中だ。除染作業は長期間に渡ることが想定される。福島の空に、農地に、そして架橋など再整備が必要とされる現場では、編隊を組んだドローンの姿が当たり前のように見られる日が来るかも知れない。 <取材・文/
石水典子

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