2015/09/08

[東日本大震災4年6カ月 大地とともに 3] 風評被害 食と宿「安心」地道に 福島県喜多方市

2015年9月8日 日本農業新聞
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しんと静まり返った客間――。福島県喜多方市の農家民宿「蔵の農泊あぐり」は東京電力福島第1原子力発電所事故後、空室の日が多くなった。

「事故前は修学旅行の子どもの声でにぎわっていた。最近はそんな日も少なくなってしまった」。オーナーで水稲5ヘクタール、ニラ20アールなどを手掛ける伊藤幸太郎さん(64)は、肩を落とす。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
事故前、小中学生を中心に年間50人以上が民泊に訪れていた。今は20人程度で事故前の半分にも届いていない。
市内には40を超える農家民宿が軒を連ねる。首都圏からも近く、グリーン・ツーリズムの盛んな地域。「事故からもうすぐ4年半がたつが、農家の高齢化も進んでいる。こんな状態が続けば、受け入れをやめる人が出てくるのではないか」と伊藤さんは懸念する。

事故を境に激減
同市では1999年、農家による農業体験受け入れが始まった。首都圏からの修学旅行の利用も増え、受け入れ体制を整えるため2005年に農家民宿のオーナーらが特定非営利活動法人(NPO法人)喜多方市グリーン・ツーリズムサポートセンターを設立した。

事故前、センターでは年間延べ約1万人を受け入れていた。しかし、事故後、多くの学校が行き先を他県に変えた。11年度の受け入れ数は約3100人と、事故前から7割も減った。14年度も約4900人にとどまる。

喜多方市と福島第1原発は100キロ以上離れている。だが「放射性物質の問題はないことを伝えたが、保護者の反対が大きいという理由で毎年訪れていた学校にも断られた」(センター事務局)。

 
 
 
 
 
 
 
 


・農家も市も奔走
農家も手をこまぬいているわけではない。オーナー農家と市職員は、客足を取り戻そうと、これまで利用があった首都圏の学校を延べ1000回以上訪問し、安全をアピールした。

伊藤さんも市職員と共に20校以上を巡回した。保護者会などに出席し、地域の空間線量の測定値の資料を示し、国の安全基準を満たしていることから「心配ないんです」と懸命に説明した。

理解を示す学校も出てきた。東京都内の小学校が今年6月、センターに「学校のバザーに農産物を出してほしい」と依頼してきた。7月、伊藤さんの妻、美砂子さん(65)とセンター職員がキュウリ、トマトなど軽トラック2台分を持ち込むと飛ぶように売れた。そうした交流が実を結び、来年5月、同校が再び訪れることが決まった。

「風評を無くすのは容易ではない。でも理解してくれる人はいる。今あるつながりを大事にして続けていくしかない」。伊藤さんはそう決意する。

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