2015/09/05

楢葉きょう避難指示解除 帰りたい…立ちすくむ人々 家、治安、生活基盤に不安 /福島

2015年9月5日 毎日新聞http://mainichi.jp/area/fukushima/news/20150905ddlk07040081000c.html

誰しも古里に帰りたい。でも、さまざまな事情で帰れない。楢葉町の避難指示が解除される前日の4日、帰郷の準備を進める人々がいる一方で、立ちすくむ人たちの姿があった。【栗田慎一】

「この場所には二度と住めないのよね」。いわき市の仮設住宅で暮らす町民の矢内一二三さん(68)と末子さん(60)夫妻が、津波で跡形もなく消えた町の自宅の跡地を訪れた。地区全体が防災緑地公園になる計画で、永久に住めなくなる。地区は除染廃棄物の大型仮置き場になった。

来年度に町内に完成予定の災害公営住宅に入居を申し込んだが、完成してもすぐに町に戻る気にはなれない。末子さんは「家があっての古里。地域の人がいての故郷。でも、元には戻らない」と語り、しんみりと言った。「家のない私たちのような町民は、避難指示解除でどんどん置いてけぼりになっていくようで」

そんな末子さんを、一二三さんが持ち味の明るさで励ます。「まあ、なるようになるべ。夫婦そろって元気なら、それで俺は満足だあ」。末子さんがそっと笑顔でうなづいた。

「母と戻って生活するには、治安面が心配で……」。いわき市の仮設住宅で55歳の母と2人暮らしの大和田晴美さん(28)が言った。父は避難生活中に心臓の病気を患い、11年12月に60歳で急逝した。

町に一時帰宅するたびに作業員の姿が増えているのが気になる。除染や復旧工事に携わっているから「ありがたい」のだが、川俣町で除染作業に携わった男が大阪での中学生死体遺棄事件で逮捕されたこともあり、本音は不安で仕方がない。

避難指示が解除されれば、避難区域でのパトロールが主な任務となっている全国から県警に特別出向中の警察官も減っていく。「街灯も消えたままだし、近所の多くが戻らないから、何かあってもすぐに助けは来ない。避難生活を続けながら様子を見ようと思う」


「道路とかは整備されても、働く場所がないから生活基盤は整っていない。せめて、仕事があれば前向きになれるのだけど。といっても、子どもを町に戻していいのか本当のところ分からないし」。10歳と2歳の子を持つ女性(32)の心はきょうも揺れている。

同居していた両親は自宅のリフォームを考えているから、家族で再び一緒に暮らしたい。でも、町内各地に仮保管されている57万6000袋以上の除染廃棄物がいつ中間貯蔵施設などに運び出されるのかも分からない。「『安全に管理されている』との町の説明は信じている」が、「そんなところに子どもを連れて帰っていいのか、国も絶対安全だとは言ってくれないし」

避難指示解除のニュースを見るたび、女性の心は振り子のように揺れ続ける。

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