2016/06/13

福島から問う 廃棄物の重責(下)もう処分できるのに…根強い風評懸念 処分場候補地が反発するなか一歩踏み出した自治体も

2016年6月13日 産経新聞
http://www.sankei.com/premium/news/160613/prm1606130003-n1.html

「候補地の白紙撤回だと理解している」
放射性物質に汚染された指定廃棄物処分をめぐって、仙台市で3月、市町村長会議が開かれた。終了後、宮城県内の処分場建設の候補地3カ所に選定されていた栗原市と大和町、加美町の首長らは、報道陣に晴れやかな表情でこう語った。この日、候補地の現地調査の凍結を、国に求めることが決まったからだ。

「調査させないぞ、帰れ!」。環境省は平成26年10月から、加美町の現地調査を何度も試みた。しかし反対住民がのぼりや車で道路をふさぎ、着手できない。猪股洋文町長も先頭に立って、「強引に入るのはとんでもない」と環境省の担当者に抗議した。

それから1年半。村井嘉浩同県知事は今年4月、井上信治環境副大臣に「県の方向性がまとまるまで調査を一時中断してほしい」とする要望書を手渡し、井上副大臣は応じた。国が調査延期を受け入れたことで、議論が振り出しに戻る可能性も広がった。


指定廃棄物などの保管状況
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東京電力福島第1原発事故は、福島県外にも大きな爪痕を残した。放射性物質の濃度が高い指定廃棄物は、東日本の12都県で計約17万トン発生。その処分場は福島のほかに宮城、栃木、茨城、群馬、千葉の5県で計画されている。

茨城では、比較的放射性物質の濃度が低いことなどから、国は処分場を造らずに「分散保管」を続けることを容認した。だが、宮城をはじめ国が候補地を提示した3県では反発が強い。

事故から5年が経過し、放射性物質の濃度が指定廃棄物の基準となる1キロ当たり8千ベクレルを下回る廃棄物も出てきた。指定解除の手続きをとれば、既存の処分場でも処理できるが、風評被害への懸念から受け入れを拒む業者も多い。「放射性廃棄物は福島に集約すべきだ」。首長らの会議では、そんな声も上がった。

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原発事故の影響で全村避難となった福島県飯舘村が、停滞している廃棄物処理にヒントを与えている。

村の蕨平(わらびだいら)地区にある仮設焼却処理施設が今年から稼働を始めた。ここでは指定廃棄物を含む放射性廃棄物を最大で1日240トン燃やすことができる。特殊な集塵装置で放射性物質を含む微粒子の灰を取り除き、排気筒の放射線量を24時間監視する。4月末までに約6千トンを焼却し、現在処理効率を上げる工事を行っている。

最大の特徴は、運び込まれる廃棄物の5分の1が、村の「外」の近隣5市町からやってくることだ。自治体の垣根を越えて放射性廃棄物を受け入れるのは、全国でも例がない。

「どこもそうでしょうが、迷惑施設を受け入れるのは難しいことですよ」。飯舘村復興対策課の中川喜昭課長は振り返る。住民は当初受け入れに難色を示していたが、25年3月、香川県の直島にある同様の廃棄物処分場を見学に訪れたことで考えが変わり始めた。

直島では、隣接する豊島に不法投棄された産業廃棄物を海上輸送して“越境”処分。地元理解を得るための徹底した情報公開と、最新の安全技術を住民が「体感」したことが、受け入れにつながった。

「村民が避難先でお世話になっている5市町の廃棄物も受け入れる」。菅野典雄同村長がそう表明した背景にも、住民の前向きな決断があった。

「村は、どうしても放射性廃棄物と向き合っていかなくてはいけない。ならば、そこで『恩返し』をしようと。村民が自分たちの意志で一歩を踏み出した結果なんです」。中川課長はそう話した。
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緒方優子、野田佑介が担当しました。

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