2017/06/27

土壌の測定から見えてくるもの〜安全の基準はシーベルトからベクレルへ〜 石丸偉丈

(「東日本土壌ベクレル測定プロジェクト」「みんなのデータサイト」「こどもみらい測定所」で奔走する石丸偉丈さん。なぜベクレルで測定する必要があるのか、今いちど一緒に考えてみたいと思います。「こどけん3号」より転載させていただきました。 子ども全国ネット)


線量の「シーベルト」ではなく土壌の「ベクレル」で危険を測る

全国32箇所の市民放射能測定室がデータを結合している「みんなのデータサイト」という会を、2013年秋にスタートさせました。 2016年11月現在、食品のデータは1万3000件以上が登録され、様々な種類の食品が、産地や収穫時期などで検索できます。それまで各地の測定所ごとにバラバラに存在していた測定データを結合することは、多くの方にとって有益であると考えてスタートしたこのプロジェクトは、各方面から反響をいただいています。

測定データの結合にあたって、重要でありながら大きな困難に直面していたのが土壌測定です。土壌の測定は、各地の測定室で既に多くのデータを持っていましたが、採取する際の深度や採取場所の選定などがまちまちだと数値に大きな開きが出るため、相互比較可能なデータにならないのが悩みのタネでした。

そんな中、岩手県で採取手法を統一した土壌測定を行なったという話があり、その方式を東日本全域に広げようと協議を開始。採取深度を5㎝に統一し、雨どいの下のような高濃度に濃縮したマイクロホットスポットのデータは同じマップには入れない、ということを定め、2014年秋に「東日本土壌ベクレル測定プロジェクト」としてスタートしました。通称「土壌プロジェクト」、検索も「土壌プロジェクト」でヒットしますのでぜひご覧ください。

「土壌プロジェクト」サイトでは、現在2500か所以上の測定データが地図上で見られます。放射性セシウム不検出のものから、土壌1㎏あたり20万ベクレルを超える超高濃度のものまで、様々なデータがあります。ぜひ、お住いの地域やご縁のある地域の近くのデータをご覧ください。

「1㎡あたり4万ベクレル以上」はどこ?

土壌マップからは様々なことが見えてきます。文科省の航空モニタリング結果や、かつて版を重ねていた早川マップなどとの相似性も見られ、ベクレル値(放射能濃度)で見ることで、より状況が見えてくるところもあります。1㎏あたり100ベクレルを超えると、「低レベル放射性廃棄物」というくくりになりますが、その数値は土壌プロジェクトマップで確認すると、東日本で広範囲に一般化してしまっていることがわかります。空間線量で見るとそれほどの上昇でもありませんが、やはり子どもたちも遊ぶような環境が、普通にそのように汚染されてしまったのは問題です。

レントゲン室などの「放射線管理区域」は、そこでは寝ても食べても飲み物を飲んでもいけない決まりです。その基準は「面積1㎡あたり4万ベクレル」。一般に土壌や食品で「ベクレル」と言われる場合には、「重さ1㎏あたり」であることがほとんどですから、土壌汚染で「面積1㎡」あたりに換算するには、面積や体積の計算が必要です。

そこで「1㎡あたり4万ベクレル」を「1㎏あたり」に換算すると、深さ5㎝を採取した土壌では、1㎏あたり600〜800ベクレルとなります。その数値は、土壌プロジェクトマップの色分けでは黄色以上の地域となり、岩手や宮城の南部、福島、栃木群馬、東葛エリアなど、広範囲にわたっていることがわかります。本来は法的に居住が制限されるはずのエリアですが、現実的には、原発事故後、法規制がなし崩しとなっています。原発事故の凄まじさです。


 
















「チェルノブイリ法」の基準と比べたら

チェルノブイリでは、事故後5年の1991年に「チェルノブイリ法」が制定され、その中で、避難基準や補償基準が定められました。個々の被ばく線量を把握する難しさから、土壌の汚染を基本的な基準としており、1㎢あたりで、キュリーという単位で定められました。すなわち370億ベクレルという巨大な単位です。近年、そのキュリーに代わって、ベクレルという単位が国際的に使われるようになりましたが、チェルノブイリ法では、法としてしっかりとキュリー(ベクレル)値での避難基準や補償基準が線引きされ、4つのゾーンが設定されています(これについて詳しくは、ぜひ尾松亮氏の『新版3・11とチェルノブイリ法」(2016・3東洋書店新社)をご参照ください。大変勉強になり、役に立つ本です)。

「土壌プロジェクト」では、Cs-137(セシウム137)の数値だけを㎡に換算し、チェルノブイリのゾーンの数値との比較マップを掲載しています。チェルノブイリと比べると、食品の汚染度の一般的な傾向(たとえば畑にできる作物などは、日本の方が基本的に汚染が小さい)や、ストロンチウム・プルトニウムの放出量の違い(日本が基本的に少ない)などありますが、セシウムに関しては、日本の土壌もかなり広範囲、高濃度に汚染があり、見過ごせません。

チェルノブイリのゾーン設定の数値と比較すれば、黄色を超えると様々な補償が出るゾーンで、オレンジになると移住の補償などが出るゾーンと重なります。赤は移住せねばならず、紫に至っては、移住は必須です。マップから、そのようなゾーンが各地に点在していることが見て取れます。中途半端な除染では全く汚染は取りきれず、しかも福島県だけで汚染物を詰めたフレコンバックが既に1000万袋もあるというのですから、めまいがするような巨大公害です。



土壌汚染の「事実」で新たな枠組みを

移住するか、残るか。放射能を気にして暮らすか、無視するか。事故後、様々な選択がつきつけられてきました。そもそも、どこが汚染地かどうかがわからず、当初は混乱したものです。今は、その頃に比べれば測定が進み、様々な測定データから事実が見えてきています。汚染は決してなくなっておらず、各地に色濃く残ってしまっていることは、残念ながらデータから見える事実です。

しかし、日本では、チェルノブイリのように、そのデータや事実を元に、補償の枠組みを丁寧に組み直すのではなく、逆に、一般公衆の被ばく限度は本来は1mSvまでとされていたはずが、それを年間20mSvに引き上げたままで、帰還政策を進めることに力を入れています。年間20mSvなどは原発作業員の方の労災認定が降りうる5mSvのさらに4倍です。それを子どもにも適用し続けているのは、恐ろしい状況です。

私たちは、事故後5年半の地点にいます。チェルノブイリでは、5年後に法の枠組みができました。日本では、6年後の2017年間3月に、福島県からの「自主避難者」の住宅補助を打ち切るとしており、避難者の暮らしを更に厳しいものにしようとしています。年間20mSvというなし崩しの基準は安全のための「規制基準」たりえません。

土壌プロジェクトのマップを見ると、福島県内では「線量が低い」と言われている会津地方やいわき地方にすら、黄色以上の数値の汚染が散見され、国内の放射線管理区域の枠組みや、海外のチェルノブイリの数値に照らしても、本来は、より多くの人々が補償されねばならぬ状況が見えます。

土壌を測定すると、放射性セシウムの数値が1㎏あたり100ベクレルを超えることは、私の住む東京でも一般的です。低レベル放射性廃棄物並みの土壌に囲まれた環境の中で、私たちは暮らし、また子どもたちは育つこととなってしまったのです。測定を続けていると、あまりの汚染の広さ、濃さに圧倒されます。もう二度とこんな事故は起こしてはならないし、この事故で苦しむ方々がもっと適切に補償され、理解される流れが必要です。

ベラルーシ、ウクライナは国家で土壌測定を行いましたが、私たちの土壌プロジェクトは完全に市民の自主的取り組みです。残念ながら、この国は、土を測らず、新たな補償設定のための枠組みを決める気配もありません。しかし、年20mSvなどといった「ふざけた数値」ではなく、この大地のどこを測っても検出されてしまうセシウム汚染のベクレル値の数値を持って、さらに丁寧に枠組みが作り直されることを求めていきたいものです。チェルノブイリ法について知ることは、その重要な鍵であると痛感します。ぜひ、「土壌プロジェクト」のデータをご覧ください。そして、尾松氏の本などからチェルノブイリ法をしっかり学び、日本の新たな枠組みがつくられる方向に流れがつくられていくことを願っています。





石丸 偉丈(いしまる ひでたけ) 「みんなのデータサイト」事務局長


子ども好き。webサイト作成・webプログラミング業務もフリーランスで行う。2011年12月に「こどもみらい測定所」を仲間とともに立ち上げる。放射能については一から勉強してきたので、分からない人の気持ちはよくわかる。カウンセリングマインド気質。早大独文卒。2013年より「みんなのデータサイト」の事務局長も務める。









※この原稿は、「こどけん3号」より転載させていただきました。

https://drive.google.com/open?id=0B5hqQuAz83W-QUFlbmNCX2tENDQ


https://drive.google.com/file/d/0B5hqQuAz83W-QUFlbmNCX2tENDQ/view



https://drive.google.com/open?id=0B5hqQuAz83W-M0haVWdNMFQxZXM


https://drive.google.com/file/d/0B5hqQuAz83W-M0haVWdNMFQxZXM/view

0 件のコメント:

コメントを投稿